ヒキガエルの基礎生態

 1.ヒキガエルの分布

 種としてのニホンヒキガエル(学名Bufo japonicus)は、二つの地理的亜種に別れ、
亜種としてのニホンヒキガエル(
B. j. japonicus)が本州南西部、四国、九州に分布
し、もう一つの亜種アズマヒキガエル(
B. j. formosus)が本州東北部(近畿、山陰
から青森県まで)に分布しています。現在、アズマヒキガエルは、本来の分布域
以外に、国内外来種として北海道、佐渡島、伊豆大島、三宅島に侵入し、定着し
ています。                               
                               

    北海道では、1912年に函館市付近で見つかったのが最初で、現在の分布域は、函
  館市付近と室蘭市地球岬付近、および石狩川流域の
3つに大別されます。石狩川流
  域の分布は、
1980年代前半、人の手によって埼玉県から持ち込まれ、旭川市と深川
  市の境界付近に放たれた個体群に端を発しており、
19 95年に神居古潭で多数繁殖
しているのが確認されています。(文献@)                     

      その後も石狩川水系全体に急速な分布拡大を続け、北海道最大の分布域となって
北海道が指定外来種とした背景の一つとなっています。(文献A)        

 最新の分布状況は、北海道庁が2018年に行った全道調査結果をご覧ください  
  (
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/alien/toad/azuma-result.htm)。 

  
  
文献@:斎藤和範・武市博人・南 尚貴 (1996) 北海道におけるアズマヒキガエルBufo japonicus formosus
        新分布地. 旭川市博物館研究報告, 2, 21-23。                   
  文献A:斎藤和範・青田貴之・八谷和彦・中川裕樹・ざりがに探偵団ビッキーズ (2014) 石狩川中下流域に
         みられる国内外来種アズマヒキガエルの分布状況と防除活動(講演要旨). 爬虫両棲類学会報 2014 (1), 57.

 

 2.ヒキガエルの体サイズ

  本州では体重が100gを越えてから成体となり始め、繁殖する雌成体の場合、平均
体重は年次により
196.5274.2gであったとする調査例もあります。     

すなわち、大きい成体は豆腐一丁くらいのずっしりしたカエルです。  
  しかし、深川市をはじめとする石狩川流域のヒキガエルは、北海道の在来種よりは
るかに大きいのは確かですが、一見してこれほど大きくはありません。   
                  
    グリーンパークを含む深川市内
4か所で各24年間にわたり計4,557個体を測定し
     た結果、成体の平均値は雌
50.097.3g、雄43.373.6gという研究があります。    

     元々、ヒキガエルは高緯度の個体群ほど体サイズが小さいという特徴があり、石
   狩川流域のヒキガエルは、この特徴を反映した全国でも最小に近い個体群であると
      言えます。
(文献B)                                                                

      文献B:八谷和彦 (2018) 北海道深川市におけるアズマヒキガエル成体の性比,繁殖時期および体サイズ. 北海道
爬虫両棲類研究報告
, 5, 1-9.
                     

        

 
 
3.ヒキガエルの産卵数

   全国版の図鑑などでは、雌の成体は、年に1回だけ、1,5008,000個の卵を産むと
  され、かなり幅があります。産卵数は雌の体サイズと強い相関関係があることも分
  かっています
ので、その相関関係に基づけば、石狩川流域に生息するヒキガエルの
産卵数は
1,0002,000個程度であろうと推測されます。(文献C)         

    幼生(オタマジャクシ)の大きさは、深川市音江町の2つの池での2年間の調査で
   は、最大で全長
3035mmとなり、変態直後の幼体の体長は10mmでしたので、本州の
  本来の分布域のヒキガエルと比べて、決して小さくはないと言うことができます

(文献D)                                          


    文献C:松井正文 (1987) 日本のヒキガエル−繁殖の地理的変異とその要因.浦野明央・石原勝敏編著 ヒキガエ
ルの生物学, 19-31,裳華房)
                         
    
文献D:八谷和彦 (2018b) 北海道深川市におけるアズマヒキガエルの幼生および変態直後の幼体の体サイズ. 北海
道爬虫両棲類研究
報告, 5, 10-12.。                

    

 
4.ヒキガエルの繁殖時期

 ヒキガエルは、年に1回、特定の時期に自分が生まれた池に一斉に戻って雌雄が出
 会い雌はその日のうちに産卵する生態を持っています。深川市におけるこれまでの
 経験では、その時期は
5月初めから5月下旬までの範囲にありますので、繁殖時期は
  5月の上中旬と言って良さそうです。ただし、各池における繁殖時期は,1週間程度
 の短期間であり、しかも、なぜか池によって最大で
3週間くらい違うのですが、その
原因は分かっていません
。                                 

  深川市以外に生息するヒキガエルの繁殖は4月や6月にも観測されていますので,全
   道的な視野で繁殖時期を言う場合は,さらに広く捉えておくべきだと思います。(文献E)

     なお、ヒキガエルの繁殖時期は低緯度地方で早く,高緯度地方で遅いことが知られて
   おり,本州の平地では
2月から、八丈島では12月から繁殖が始まり、高山の生息地では
7
月に繁殖することもあります。                     

    このようなことから,深川市における繁殖時期は,北海道の気候とヒキガエルの気候
適応からみて自然なものと考えられます。
                           

        文献E:八谷和彦 (2018) 北海道深川市におけるアズマヒキガエル成体の性比,繁殖時期および体サイズ. 北海道爬
虫両棲類研究報告
, 5, 1-9.                        

                     


 5.ヒキガエルの成長と寿命

 ヒキガエルの幼体期間の長さ、つまり幼生(オタマジャクシ)から変態して繁殖
 できる成体となるまでの期間の長さは,雄
23年,雌34、あるいは雄2.4年,
 雌
2.7などとされていますが、北海道に定着したヒキガエルの場合は、もう少し長
いようです。
(文献F、文献G)                                    

 深川市音江町の定点で年間の体サイズの変化を定期的な捕獲で調査するとともに,
骨の組織中に残る年輪のような成長停止線
(Line of Arrested Growth)の数を調査した結
果、雄は
3回または4回,雌は4回または5回の越冬ののち成体となり,それ以上の回
数ののち成体となる個体はほとんどないと考えられました
。          

  本州から持ち込まれて長い年数は経っていないのに、北海道の冷涼な気候に適応し
て、本州とは違う成長の経過をとっていることは驚きです。
(文献H)          

成体となってからの寿命は、本州では数年程度だと考えられていて、飼育すると
  10
年以上生きたこともあるらしいです。しかし、深川市音江町で捕獲した成体につい
  て、骨組織の成長停止線を調べた限りでは、成体となった初年目か
12年しか経って
いない個体ばかりで、希に
3年の個体がいる程度です。            

  駆除活動の影響も考えられますが、なぜこうなるのか分からず、今のところ成体の
寿命については何とも言えない状態です。                  



 文献F:(久居宣夫. 1975. ヒキガエルの生態学的研究(U)ヒキガエルの成長. 自然教育園報告 (6)9-19.、久居宣夫
       . 1981. ヒキガエルの生態学的研究(VI)雌雄による成長と性成熟の差異. 自然教育園報告 (12)103-113.
文献G:
Kusano, T., K. Maruyama and S. Kaneko. 2010. Body size and age structure of a breeding population of the
     Japanese Common Toad, Bufo japonicus formosus(Amphibia:Bufonidae). Current Herpetology 29(1):23-31.
 文献H:八谷和彦2018、北海道深川市に定着したアズマヒキガエル個体群の幼体期の成長、爬虫両棲類学会報   
2018(2)156-162
                                   
                                  


 6.ヒキガエルの天敵

生物の数は天敵の存在だけで決まるわけではありません。ヒキガエルの場合、北
海道でこれほど増加する原因は、餌、生息地、温度や湿度などの物理的環境、捕食
 性天敵や寄生性天敵など様々な生存条件に問題がないかまたは、少なくともこれらを
トータルすると本来の生息地である本州におけるより条件が少し良いからではないか
と考えられます。                              

 その結果として、産卵されてから成体に成長するまでのあいだに通常
99%以上死亡
しているとみられますが、その死亡率が北海道では本州におけるより少し低く、平均
して親世代より少し多くの数の子世代が成体となってしまうため、生息数が増え続け
ているのではないかと考えられます。                     

 ヒキガエルの寄生性天敵については、実態がほとんど分かっていません。    
捕食性天敵については、ヒキガエルは肉食動物にしばしば狙われていると思われます
が、ヒキガエルが毒を持っていることと、匂いや味が不味いらしく、ヒキガエルを繰
り返し捕食するのが観察されているのは、今のところアライグマだけのようです。 

 捕食者となりそうなキツネは、ヒキガエルの味を一度知ると捕食しなくなるようで
 す。                                     
 カラスは毒の少ない腹側からヒキガエルを食べるらしいですが、カラスは夜間活動
しないので、これまでの経験では、路上で夜間に轢死したヒキガエルの死体を昼間つ
いばむカラスを見る程度です。                        

本州では、天敵としてヤマカガシというヘビが有名です。            
北海道にヤマカガシはいませんが、この捕食者
1種だけで本州との環境条件の違いを
説明するのは難しいと思われ、北海道で大増殖する原因はまだわかっているとは言え
ない状態です。天敵を放せば問題は解決するなどという生物学(応用動物学)の軽
率な古典的誤りを、名案だと思ったりしないで下さい。